同じ町内で育った幼なじみに、鳥居くんという人がいる。
学年は、3つくらい下だったかな。鳥居くんの家のそばにはお稲荷さんがあったり、大きな野菜市場があったり、あと釣具屋さんもあって、あへんではよく遊んだ。
お稲荷さんはそんなに大きなものではないんだけど、祭りが終わった後に子どもたちにお菓子を配ったりする場所だったな。
鳥居くんの思い出は、常に「香り」と共にある。
甘くてスパイシーな、空腹時はたまらなくなる、とてもいいにおい。そのにおいだけで、ご飯が何杯も行けそうな……。
だからごめん鳥居くん、じつを言うと、君の顔はまったく覚えていないんだ。でも小さな頃によく遊んだ、君の家のあたりの情景だけは、いまだに忘れられない。
「ああ、そろそろ家に帰ってゴハン食べたいなぁ」
そんな記憶とセットになっているからね。古き佳き昭和。
鳥居くんの家は、ソース屋さんだ。ソース「屋」というと店舗っぽいものを想像するかもしれないけど、小売りはしていなくて、ソースを作ってたんだよな。外観はちょっと殺風景で、工場のようだった。
そこから発せられるのは、ウスターソースの香り。野菜の甘みに、香辛料の辛さ、あと、ちょっとカラメルが焦げた感じのまろやかな香りが、1年365日、24時間いつでも漂っていた。
ソースといえば、全国的に有名なメーカーがいっぱいあるけれど、もちろん私が生まれ育った町では、鳥居くんちの「トリイソース」一択である。鳥居くんの代になって、添加物を使わないようにしたり、地元の野菜にこだわったりと、いろいろがんばっているようだ。
ググってみたら、立派なサイトも開設されており、最近では実家のオフクロから、妙におしゃれなパッケージに身を包んだトリイソースがたまに送られてくる。
サイトを見たら、90年以上も同じ木樽でソースを作ってるんだな。そりゃ、あのへん一帯が常にソースの香りに包まれていたのも頷けるというもの。
我が家では、アジフライや焼きそば、たこ焼き等々フル回転。昨夜も、カキフライだったのでお出まし願った。タルタルとソースのコンボは、最強のひとこと。
ありがとう鳥居くん、おかげで今夜も我が家の食卓は、いい香りです。
これはいい。買ってみるか!
いやー、オレの場合は思い出補正がけっこうあるからなあ。でも、悪くないソースだと思う。