ボンベイ庵を訪う

この辺境ブログでも定期的にそこそこのアクセスを稼いでいるエントリがいくつかある。たとえば、浜松にあったカレー屋、ボンベイのことを書いたもの

名前をボンベイ庵として復活しているのは知っていた。場所は駅前の繁華街ではなく、浜名湖の奥、クルマで1時間くらいかかるようなところで、営業は昼間のみ、基本予約必須で、1日限定5組まで。おまけに年末年始や夏は1ヵ月程度、長期休業するという。

さすがに帰省時に気軽に行こうにも無理ってことで静観してたんだが、9月の中旬に一週間ほど実家に帰る機会があって、ついに念願を果たすことができた。

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迷いはあった。何よりも、昔の味は期待できないということ。あの、ヒリヒリするようなスパイシーな辛さであったり、豊富なメニュー、東海地方で初めてというタンドール釜で焼かれたナンなど、オールド・ボンベイの魅力そのままに復活したわけではない。

休業後、地元のスーパーにだけ卸しているというレトルトを食べたことがあって、おそらくはその味がベースとなっているはず。チキン、キーマ、ビーフという三種類の構成を聞いただけで、昔のボンベイの味ではないことは明らか。尤も味自体はそれなりに美味く、特にチキンは、そのへんのレトルトカレーのレベルを遥かに凌駕するものであり、そういう意味ではホッとしたのだが。

というわけで、カミさんと娘をクルマに乗せて、ブーンと行ってきました。もちろん1歳児連れコミで予約済み。

ちょっとした高台、最後「こんなところを登ってくの!?」という感じの道を突き上げたところに店はある。気持ちのよいテラス席に案内してもらい、ランチ2000円のコースをチキンとキーマでオーダー。

ランチで2000円というのは浜松のような田舎ではあまり聞かないが、原価や営業形態などを考えると、これでもあまり儲けはないのではないか。

「タンドリーチキンは、昔のレシピで作ってるんですよ」とのことで、確かに懐かしい味。裏を返せば昔のレシピで作ってるのはこれだけということでもあるのだが、昔の味など知らないカミさんは、「うまいうまい」とパクパク食べている。

実際、このタンドリーチキンもスペアリブもソースがむちゃくちゃ美味い。追加でライスをおかわりして、汁まみれにして頂いたくらい。

そうなのだ、昔の味などどうでもいいんだ。それを求めて来たわけではない。料理はどれも素晴らしく、ときおり気持ちのよい風が吹いてくる。ガタンゴトンと音がするので遠くを見やると、天竜浜名湖鉄道の一両編成がゆっくりと景色を横切る。その向こうに、陽光に照らされた浜名湖、引佐の海が見える。

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浜松出身で自分の年代であれば、肴町にあったオールド・ボンベイでカレーの洗礼を受けた人は少なくないはずだ。

学校帰りに、あるいは家族と、正月元旦に、あの薄暗い店内で出会った味は忘れることはない。星いくつに挑戦しただの(星の数で辛さが決まる)、ランチのサービスのマンゴジュースをいかに効果的に飲むかだの(辛さが和らぐ)、総鏡張りのトイレで用を足すときの落ち着かなさだの、当時、友人たちと交わした会話も懐かしい。

付き合っていた女の子とボンベイに行ったら、隣のテーブルに友人がいてそっちもオンナ連れだったとか、そんなこともあった(その友人は地元で医者として活躍していると聞く)。

突然、店はなくなってしまったけれど、こうした形であっても、復活してくれたことを素直にうれしいと感じる。思い出の味があるということは、本当に幸せなことなのだ。

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