祖父の記憶は全くない。私が生まれてすぐ、亡くなってしまったからだ。
戦前家族を引き連れて満州に渡り、なぜか終戦前、頃合いのいいタイミングで日本に戻ってきて、一等地のお屋敷を先物取引かなんかで失って、戦後商売を始めた。
いろいろとエピソードには事欠かないのだが(じっさい、祖父の武勇伝ばかりを聞かされて育った)、書道家でもあったことは私も知っていた。ウソか本当か、榊莫山とも親交が深く、家には祖父と榊莫山が交わした手紙が残っているという。見たことはないんだけれど。
先日帰省していた折、祖父の話になり「そういえば、アソコの潰れた店の看板はオヤジが書いたんだけどまだ残ってるな」と父が言う。
「え、何ソレ?」と詳しく聞いてみたら、商売の一環としてよく地元の店の看板を作っていたらしい。そのいくつかが、まだ現存するという。
こちらは飲み屋のもの。筆で書いたものに合わせてアクリルを切り、看板に仕立てている。


あともう一軒、まだ商売をなさっている呉服屋の店名も、祖父の書によるものだそうだ。

おいおい、そういう大事なことはもっと早く教えてくれたまえよ。まったく…。