パキスタン北部のカラコルム山脈で遭難事故があったと聞いた。
アルピニズムはその性質ゆえ、常に命の危険と隣り合わせとなる。だからこそ価値があるのかもしれないが、臆病な自分は常に自分の身をそこから遠くに置いている。
山は好きだけれど、自分が好む山は国内外のアルプスの稜線ではなく、山と極力一体化できるような低山をむしろ選んで生きてきた。
彼らには畏敬の念を抱きつつ、結局のところ異なる人種と思っている。
とはいえ大型連休のたびにニュースになる遭難事故や、海外の名峰での悲しい報せは、どこか自分の活動と地続きのような、決して他人事とは思えない、何らかの示唆を与えてくれるものとして認識しつつも、遠い世界の出来事のように思っていた。
それが繋がったような気がしたのは、今回遭難したうちのひとりはかつて鳳凰小屋で働いていたことがあることを知ったからだ。
小屋の主人である細田さんが(かなりご高齢だとは思うのだが)、Tweetを投稿していた。
自分もかつて鳳凰小屋で、短期ではあったがお世話になったことがある。
あの御座石鉱泉からの登山道を、何度も歩荷した。キノコの研究者のフィールドワークに同行したり、鳳凰三山の稜線の赤ペンキを塗ったりもしたこともある。
おそらくは「彼」も同じような景色を見て、同じようにカレーを作ったり、同じように小屋番の部屋で寝起きしていたに違いない。
経験を積み、あらゆるリスクを想定したうえで挑むヒマラヤの登山で遭難した彼のことを想い、今夜酒を呑んだ。痛かっただろう。寒かっただろう。
まだ遺体は発見されていないそうだが、願わくばその人生が意味あるもの、価値あるものだったことを祈っている。
そして改めて、いかなる活動であろうと山で命を落としてはならないということを肝に銘じたい。
どうぞ安らかに。