この日は必ず現地で見ると、心に誓っていた。
その催しが毎年開催されているというのは知っていた。ただコロナで無観客、声出しナシという期間があったため、2023年に行われたザスパ群馬との試合をDAZNで見ていて、かなり面食らったのだ。
試合内容よりも、画面越しに響く、子供たちの声援に感動してしまったのである。
その試合の模様や、裏方として頑張ってくれている磐田市職員に密着した動画を見て、とにかくナマで見たい、見るしかないと思うに至ったわけだ。
これらの動画は2023年のもの。いや凄くないですか、この声援。
試合後、ザスパ群馬を率いていた大槻監督も、こんなコメントを残してくれている。さすが、わかってらっしゃるよね(今年解任されちゃって、とても残念)
ところで、お気づきだろうか。
このイベントは単に地域の小学生を無料招待する、というものではない。その名称からも、れっきとした「授業」なのである。
さすがに全学年というわけにはいかないのだろうが、磐田市内すべての小学5年生と6年生、約3000人が対象。「授業」というからには学校の公式行事でもあるわけで、先生方もフル稼働している。
実際、当日のスタジアムまわりの状況はカオスそのもので、引率の先生が声を張り上げながら担当するクラスの児童を誘導している姿があちこちで見られた。そりゃ、中にはコーフンしてるせいか言うことを聞かない生徒もいるし、列を乱したり大声で騒いだりしながらスタンドに連れて行かれていた。
当然、試合後の帰宅時も同じことが起きるわけで、この日のような大逆転勝利(前半1-2から結果3-2)の後というのは、小学生に冷静でいろと言うほうが難しいだろう。ううむ、本当にご苦労様です……。
おそらくは学校に集合してから出欠確認をして(急病になる子もいるだろうし、ひょっとしたら親や本人が清水サポだったりして「宗教的な理由」でボイコットするケースもあるかもしれないw)、近隣の小学校は歩いてきたり、少し離れたところの小学校はバスを手配するなど、とにかく事前の調整を、いろんな大人たちが大変な思いでやってくれているのだろうと想像する。
授業っていっても、結局は無料招待なんでしょう?と思うかもしれないが、少なくともこのイベントについてはそれなりに少なくない予算が計上されている。以下は、令和5年度の磐田市予算の説明資料からの抜粋だ。

磐田市に拠点があるのはジュビロだけでなくラグビーの静岡ブルーレヴズもあるものの(そちらは中学2年生の一斉観戦のようだ)、2,575千円がチケット代として見込まれている。
サッカーが2学年で3000人+ラグビーが1学年なので、単純に4500人で割れば1人あたり600円弱でしかないが、それでもまとまった金額を行政が、税金から支払っているということに意義がある。
そのほかにも、バス代や消耗品(飲料水とか食べ物かな?)なども含めて、きちんと予算化されているのだな、ということが改めて分かった。
なぜ磐田市はそんなことをしているのか?
そりゃ、ひとえに上図説明にある「児童・生徒の郷土愛の醸成及びホームタウン意識の高揚につなげる」に尽きる。磐田のような、地元出身の自分でさえちっぽけだなと思う地域において極めて優先度の高い、シンプルな目的だが、これも地元にプロスポーツチームがあるからできることだ。
一方でジュビロ磐田としてもメリットは大きい。この「授業」を受けた児童の多くは、家に帰ってから試合のことを話すだろうし、家族含めてサポーターを増やすことにもつながる。
またボランチとして頭角を現しつつある藤原健介などのように、この「授業」を受けた児童がプロ選手としてジュビロ磐田と契約するという事例も生まれてきている。すごくない?
お揃いの帽子は地元のガス会社のサーラが、タオルマフラーはポッカサッポロが提供してくれている。声援もすごいんだけど、3000人が一斉にタオルマフラーをぶん回す姿は、まさに圧巻だ。
応援についてもサポーター有志が市内の小学校をすべて回って講習会を開いている。当然だがこちらも授業の枠で行われており、だからこそ統率の取れた大迫力の、かわいすぎる声援が実現しているのだ。3000人がそれぞれ勝手に声を出してもバラバラなだけだもんね。
行政、企業、民間それぞれが手間をかけ、育ててきたこの「授業」は2024年で13回目を迎えたが、通算で10勝3敗(分けナシ)という脅威の勝率を誇っている。近年はすっかりエレベータークラブとなってしまったジュビロでこれは異次元とも言える数字だ。
小学生の存在が選手たちにパワーを与えている、それ以外に説明が付かない。
この試合、本当は1人で行こうと思っていたのだが、ふと思い立って90歳を越えた父親を誘って見た。二つ返事で行くというので、近くの駐車場も抑えてメインスタンドのかなり良い席を確保。
小学生パワーを真正面から浴びたせいか、けっこう楽しんでくれたようで本当によかった。
来年も、行きますよ。