原りょう 『愚か者死すべし』

あの沢崎が帰ってくる!本屋で発見した瞬間、手にとってレジに向かったくらいで、とにかく大期待。

「りょう」としかネットでは表記できないのがナニだが、この人の名前は「寮」のうかんむりがない字だ。そのため、世界中のウェブサイトがUnicode完全対応になっても、おそらくスンナリとは表記はできそうにない(少なくとも、OS Xのテキストエディット&ことえり環境でも字は見つからなかった)。「草なぎ剛」より、もうちょい奥深い問題である。

原りょう『愚か者死すべし』

そんなことはともかく、この週末はヒマを見つけては読み進めた。だが結論から言うと、いかに前三作がよかったかの再確認にしかならなかった。この復帰第一作に関しては、読み手としては非常にフラストレーションがたまってしまい、なんともはやな感じである。

決して小説としての水準が低いというわけじゃないんだけど、いかんせん沢崎を中心とした世界がこじんまりとしてしまったせいか、どうもイマイチ感が拭えない気がする。当世っぽく「ひきこもり」が登場したり、まぁほかにもそれらしい仕掛け(ネタバレになるので書けない)があったりもするんだが、これなら、短編集『天使たちの探偵』の中にある小品のほうが読後感はよかった。長い長い沈黙の末に出た続編がゆえに、期待しすぎちゃってたのかもしれない。

著者は、あとがきでこの沈黙の期間に何をしていたかを書いてるんだけど、かいつまんで言うと、要するに「いい作品を書くための鍛錬」だったそうだ。残念ながら、僕にはそれが響くことはなかった。だけど、次回作もたぶん手に取ると思う。渡辺がいない世界で、沢崎がどうやって読者を引っ張るのか、作者の悶々とした闘いに興味があるからだ。