今年の収穫

梅雨入り前の初夏の週末。この時期は必ず野川公園を訪れるようにしている。

もちろん、元GHQのゴルフ場という広大な芝生に寝転がってビールを飲むのも目的のひとつ。ちょうど(風前の灯の)伊勢丹府中店で大北海道展をやっていたので、これまで買ったこともなかった海鮮弁当なんぞを誂え、訪れた。

ムスメの楽しみは、いわゆる「ガサガサ」だ。野川の川っぺりを網でガサガサやると、小魚やエビが入ってくる。近所のガ……子供らに混ざって、サンダルで流れにジャブジャブして無心に網を入れるのを見ていると、遠い日の自分の姿にも重なるところがある。

いやいや、梅雨入り前のこの時期、なにが重要かって、桑の実である。

小金井在住の友人から水曜日あたりに連絡が来て、「そろそろ収穫ですよ」というので、今年は気合を入れてジップロックの容器を持参した。これまでは適当に摘んで口に放り込むだけであったが、今年はそれなりの量を集めて、ジャムにしようという目論見である。

前日の土曜日で取りつくされてるんじゃないかと心配していたが、杞憂であった。

子供らの背が届くあたりの実は少なかったが、大人の背丈で届くところは、ちょうど黒く熟した実がたわわになっている。これが意味するところは、もちろん分かる。真っ当なオトナは、桑の実になど執着しないのだ。

まあいいさ。とりあえず容器いっぱい詰め込んで、ほくそ笑むのであった。

なお桑の実の処理だが、流水にさらしてよく洗ったら、ヘタを取り冷凍しておいた。冷凍することによって細胞膜がつぶれてペクチンが出やすくなるとかなんとか。

妻も子も、桑の実には興味なさそうなので、そのうちワイルドなジャムを作り、味見をさせてやろう。

実の熟し具合を見る限り、次の週末までは楽しめそうだ>来年の自分

錦糸町で啜り泣く

30℃超えの猛暑日、ひとり錦糸町に向かった。お目当ては、新日フィルの生オケシネマ。チャップリンのThe Kidだ。

子供も連れて行こうかと思っていたのだが、事前にYouTubeで見せたところ「なんか怖い」というので単独行と相成った。カミさんには申し訳ないが、遠慮なく羽根を伸ばさせていただこう。

すみだトリフォニーホールは、大昔に同じく生オケシネマの『街の灯』で来て以来。当時に比べると駅のまわりも整然としており、なによりスカイツリーができている。調べてみたら、街の灯は2017年にもやってたが、自分が見たのはもっと前のやつだ。何年前だったんだろう……。まあいいか。

The Kid自体は60分ということで、前座というか露払い的に『担へ銃(つつ)』というコミカル作品が演奏&上映された。これはこれでテンポもよくて面白い。

 

休憩を挟んで、いよいよThe Kidである。

この作品は、子供の頃にNHKかなんかで見て号泣した覚えがある。初めて泣いた映画なのかもしれない。

とにかく子役のジャッキー・クーガンが可愛すぎてたまらんのだけど、連れ去られるところの演技が抜群に素晴らしく、何十回も見ているがいつも同じところで涙が出る。

そんなわけで、この日もハンカチレディで臨んだわけだが、上映開始直後の演奏が始まった途端、涙腺が崩壊してしまった。これぞ生演奏のチカラか。テレビ画面からは想像も付かなかった破壊力である。

ああ、この瞬間のために、わざわざ錦糸町くんだりまでやってきたのだ。冒頭10秒で、十分モトは取った、そんな気分にさせてくれる。

例のシーンでは会場全体がすすり泣き。全体的に客層は年齢高めだったが、じーちゃんもばーちゃんも、おにーちゃんもおねーちゃんも、そして勿論ワタクシも感極まっている。そしてフィナーレ。

 

終演後はトボトボと北斎通りを歩き、両国へ。翌日だったらトランプが来るってんで周辺はモノモノしかったかもしれないが、どうにか結びの一番前に「亀戸餃子 両国店」のカウンターに滑り込んだ。

映画の余韻に浸りながら、レモンサワーと餃子を流し込み、しみじみとシアワセを噛み締めた。

稲庭うどんと白石温麺

宮城県白石市の名物として、白石温麺(うーめん)なるものがあると知ったのは最近のことだ。

素麺とは異なり、食用油を使わないためアッサリ風味で、するすると食べられるのが特徴だという。

今から四百年ほど前、伊達藩白石城下に鈴木味右衛門という人がおりました。

父が胃を病んで床に伏し何日も絶食しなければなりませんでした。親思いの味右衛門は大変心配して、何か良い食餌療法はないかと八方手を尽くしたところ、たまたま旅の僧から油を一切使わない麺の製法を耳にし、これを作って温め父に勧めたところ、胃病は日ならずして快方に向かい、やがて全快したということです。

油を使わないで作る麺は胃にやさしく消化も良いので回復を早めたのでしょう。白石城の片倉小十郎公は、前記の孝行話の「温かい思いやりの心」を称え、その麺を「温麺(うーめん)」と名付け、地場産品として奨励しました。

白石市 きちみ製麺HPより

https://www.tsurigane.com/origin.html

問題は、それに続く一節だ。

この油を使わない伝統的製法は、その後秋田県稲川町に伝わり稲庭うどんとなったとも言われております。

 

宮城県白石市と秋田県湯沢市稲庭。この遠く離れた二つの地を繋げたものがあるとすれば、それは仙北街道に他ならないのではないか。

湯沢市稲庭は、仙北街道の秋田側にある。白石温麺が、水沢を経て仙北街道を辿り、東成瀬から稲庭(稲川)へと伝わったとしても何の不思議もない。ましてや保存食としても優秀な白石温麺は、仙北街道を歩く旅人たちにとって必携の食料だったのかもしれない。

稲庭うどんの発祥については諸説あるようだが、仙北街道を往く旅人によってもたらされ、日本三大うどんとも称されるにまで発展したのであれば、これも古道ならではの浪漫ではなかろうか。

 

今年の夏は仙北街道を歩く予定なので、いいタイミングで白石温麺のことを知ることができたと、まあそういう話でした。