長谷川伸の作品は、もっと評価されてもいいんじゃないかと昔から思っています。
ともあれ、『関の弥太っぺ』に続き、小林まことがイブニングで連載していた『沓掛時次郎』の単行本が出ました。本誌での最終回では、菅原文太と対談なんぞしてはしゃいでおりましたが、それも収録されています。
ある程度連載を追ってはいたもののヌケもあったりして、通して読むとやっぱイイなぁ〜。因果あり、手にかけてしまった男の妻子をその後も見守る時次郎。義理と人情ってのは、やっぱこーいうものですよ、ええ。流れそうになる涙を必死に堪えること数多。
ストーリーの良さはもちろんですが、この作品の価値を高めているのは、そこだけに拠るものではないですね。やはり構成力、演出力が素晴らしい。弥太っぺもそうだったけれど、小林まことというマンガ家の表現力には凄まじいものがあることを再発見。子供の頃に読んだ『一二の三四郎』とかのバタバタなイメージが強かったけど、まさに円熟の極み。
夫を殺した相手、いっぽう殺した男の女房、この2人の絶妙な距離感がたまりません。物語終盤の、最も盛り上がる部分でのやり取りは、凡百の愛の語らいなぞ簡単に吹っ飛ぶ出来。このへんの、作者なりの消化の仕方っていうのが、映画とはまた違った味わいです。市川雷蔵版しか知らないけれど……(あのラストは良かったにゃ〜)。
あと、子役の太郎吉。自閉症児として描かれており、その騒々しさは連載で読んでいた頃は浮き気味、スベり気味かなあ……とも危惧しておりました。ところが通して読むと、なるほど必然性がある。むしろ作品の芯と言ってもいい。
作者自身、最終回が掲載されたイブニングの作者コメントで、実子が自閉症であったことを打ち明けてらっしゃるが、ちょっと気になって調べてみたら、この太郎吉は『格闘探偵団〜走れ!タッ君』という作品のタッ君なんだね。取り寄せてみようっと。
なお、例によってシリーズ全体の伏線もぬかりありません。次回連載作は『一本刀土俵入』だそうで、読者をじらしつつ、この大いなる試みは続くようです。