いい映画です。で、これがモントリオール世界映画祭でグランプリを取ったり、米アカデミー外国語映画賞の日本代表作品として選出されるなど、内外で高い評価を得ているのは、とてもいいことだと思う。
派手なシーンや大きな仕掛けがあるわけではないけれど、このような極めて日本的な題材を扱ったものが、外国人にウケているということ自体が、なんだか不思議な気もする。かように人に勧めたくなる映画は珍しい。できれば多くの日本人に観てもらいたいと素直に思う。
日本人には、死に対する潜在的な穢れの意識があるし、差別に通じることもある。もちろんこの映画でも、そのあたりは触れざるを得ないわけだけど、扱いがうまい。主人公の妻や幼なじみの反応なんかは、非常に平均的な日本人像だと思うし。たぶん、このくらいの意識がちょうどいいんだと思う。突っ込みすぎると、それはそれで映画としては成立しにくいものになるからね。
納棺師という職業自体、一般人にとってはピンとこない。ただ、毎日のように、どこかでだれかが死んでいるのも確か。ひとりの人間にとっての身近な死というのはそんなに多くはないかもしれないけれど、だからこそ、いざそのときになり、誰かの死に直面すると意識は一変する。この映画は、そういった日常モードと当事者モードの描き分けが、とっても上手い。
どう生きたかに関わらず、死びとは等しく尊厳を有する。古来言われるように、死んだヤツの悪口を言うひとはいない。繰り返すが、この映画が海外で評価されているというのは、日本人の死生観が受け入れられているということであり、本当にウレシイことだと思う。カミカゼ・ハラキリだけじゃないんですよ。
テーマがテーマだけに、適度なユーモアも重要な要素。冒頭から笑わせてくれて、とにかく全体のバランスがいい。モックンや山崎努はもちろんのこと、個人的には笹野高史がよかった。ついでに言うと、ヒロスエのヘソもよかったですよ。