はな子を悼む

中央線沿線に住む貧乏な若者にとって、井の頭公園は特別な存在である。休日ともなれば大勢の人出で賑わい、大道芸人やギターを手に歌う人たちの周りに人垣ができ、ジャンクな食い物を片手にブラブラすれば、充実した休日を過ごせた気分にもなる。

そんなわけで、自分も頻繁ではないにせよ、井の頭公園はよく歩いた。むかし、吉祥寺の北口のほうに吉四六というお好み焼き屋があって、成蹊大学出身の子に教えてもらったんだけど、そこの独特な泥ソースまみれのお好み焼きをテイクアウトして公園でビールを飲みながら食べることが多かった。

もちろん動物園に立ち寄るのは定番コースである。


象のはな子が死んだと聞いたとき、多くの人と同じように昔のことを思い出した。学生の頃、とてつもなく貧乏だった頃、会社勤めが充実してた頃、そして子供ができて一緒に連れて行った昨年のことも。


献花台が設置されているというので、ふたたび子供を連れて行った。花を手向けるよりは、他の動物の餌にでも使ってもらえるかもとリンゴとバナナを供えた。

動物園に動物を見に行くという行為は、結局のところ人間の自分本位の発想であって、じっさいは彼ら、彼女らも我々を見ている。


動物園で飼育されている動物が死んだ。ただそれだけのことなのかもしれないが、彼女は特別な動物だった。70年ちかくも生きて、いろんな事故や事件もあったし、言いがかりに近いような報道もあったけれど、その死が穏やかなものであったことを願ってる。

※献花台の設置は、今月12日までだそうです。

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