「すずめの戸締まり」を見てきた

若干引き気味の家族に、この作品がいかに優れた映画であるかについて熱弁をふるいながら確信した。

自分はおそらく、最初から新海誠ウォッチャーだったのだ。


Mac1台でアニメ映画を作った男がいるというニュースが、新海誠という人を知るきっかけとなった。当時の仕事と関係したトピックということもありご本人と若干の絡みもあったが、当時は作品の質や内容というよりも、その「個人での制作」が話題の大半を占めていた。

世の中がわりと認識し始めたのは、やはり「秒速5センチメートル」からだと思う。

終盤で山崎まさよしの歌がガンガン来るあたりは正直ちょっとキツいんだけど、ここまでセンチメンタルな情感を臆面もなくさらけ出す(しかもしつこい)こと自体がすごいなと感心した。

そこから「言の葉の庭」までは、「秒速」のラストのようなピュアでイノセントなほとばしりを基調とした新海節ともいえる作風に毎度身悶えさせられながらも、背景美術やアニメーション表現の質の高さで作品力を維持していた印象だ。

新海誠は常に無防備で、丸裸で、全力で攻めてくる。

いっぽうで、ストーリーテラーとしては正直言って厳しい目を向けられていたように思う。

テーマを凝縮して短い尺でまとめた「言の葉の庭」は佳作だとは思うが、インパクトは弱い。雨の表現がすごいねとか、そういった評価の声が多かった。


転機となったのは、やはり「君の名は。」だ。

本格的に東宝と組んで豊富な資金とバックアップを得た。とりわけ脚本には川村元気をはじめとする東宝チームが大きく関わっているという。いわゆるハリウッド方式とも言える。

想像にすぎないが、民俗学的アプローチが入ったり、映画的な文法に則った抑揚ある展開などは東宝チームの影響が大きいのではないかと思っている。

物語のベースにはしっかり関わりつつも監督業に徹することができた新海誠は、躍動。結果、あれだけのヒットを生み出すことになった。

続く「天気の子」も座組は同じだ。東宝はまんまと新海誠に魔改造を施し、打出の小槌を手に入れた格好だ。


で、「すずめの戸締まり」である。

この映画で新海誠はついに、ストレートに震災を描いた。事前に冒頭12分の映像がAmazonで公開されていたので事前に見てはいたが、明らかにテーマは311であり、地震であることがメッセージとして伝わってきた。

だからこそ不安もあった。

震災をテーマにした映画はこれまでいくつもあったが、個人的に「これは!」と思う作品はなかったからだ。使命感ゆえか、テーマの重さなのか、独りよがりなものだったり、単純に社会性に訴える面ばかりが表に来たり。

果たして新海誠はこの物語をどうまとめるのか。主人公が宮崎から愛媛、そして神戸に移動する展開に違う意味でハラハラする。次いで東京。誰にでもわかりやすく過去に大震災に見舞われた土地をつなぎ、当たり前のように東北へと至る。そして大団円。

いやー、おもしろかった!お見事!


ようやく映画で、ここまでダイレクトに震災を描けるようになったかーと感慨深かった。被災者への寄り添い方はもちろん、直接的であれ間接的であれ、311を経験した人であれば誰しもの心に響くものを持っている。アニメならではのアプローチだ。RADWIMPSのMVみたいな展開もないし(大事なとこ)、客席で背中がムズムズすることもなかった(そこは拍子抜け)。

「君の名は」の2016年の段階では、ここまで踏み込んではいないし、踏み込めなかった。結局のところ震災に正面から向き合って物語として昇華させるには、喪失されたものが救済されるには、幼女が女子高生になるだけのリアルな時の流れが必要だったということなのだろう。


新海誠は結局のところ、彼自身がコンテンツのようなものだ。Mac1台で始めていろんな批判をいっぱい受けてきて、ついにここまで到達できるのかとしみじみ感動した。

甘ったるいラブソングしか歌えなかった歌手が、今後何年、何十年も歌い継がれるような曲を作ってしまったという、記念碑的な作品だよこれは。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です