地元の天丼屋

故郷の浜松には、地元ではちょっと知られた天ぷら屋、ていうか天丼屋がある。天錦(てんきん)という店で、天丼の味そのものも旨いのだが、親父がタネを揚げるとき指を天ぷら油に突っ込むパフォーマンスがあったりで、色んな意味で楽しめる店なのだ。

浜松祭りの前日、街中のミニシアターで映画を見ようと思い立ち出かけた。その前の腹ごしらえに数十年ぶりに天錦で天丼喰おう!と立ち寄ってみた。


祭り直前だったこともあり、行列には法被姿もチラホラしつつ10人程度。よかった、これなら上映開始に間に合いそうだと最後尾に接続。いま昼の天丼は1500円なんだね。ま、物価高など色々ありますしそれくらいの価値はあることだしと。

店に入ってちょっと驚いたのは、記憶にある大将ではなくやや若い方が天ぷらを揚げていたことだ。そりゃ、前に来たのはいつだったか思い出せないくらいだから、代替わりしていても不思議ではない。いやむしろ、この店が次代に継がれたのならば喜ばしいことである。


席について店主の様子をしげしげと見ていると、やはり伝統芸なのか何なのか、ちょいちょい指が天ぷら油に突っ込まれている。

ここの天丼はご飯の中に卵黄の天ぷらを仕込むんですね。その卵黄に衣をまとわせてから素手でそっと持って油に落とす。その際に必ずといっていいほど指先もドボンしているわけです。尤も指先には天ぷら粉がベットリ付いており、それもあって大丈夫なのかもしれない。まあ細かく突っ込むのも無粋ってことで。


そうこうするうちに、自分の天丼が仕込まれる。卵黄の天ぷらを潜ませてご飯を盛り、小さめなエビが3本と白身魚、あと梅肉を挟んだ大葉を盛り付けたら、薄めの天汁をダバダバっとかけるわけです。その状態の丼に、蓋をクルクルっとアクロバティックに空中で回転させて閉じてから、丼をひっくり返して余計な天汁を切る。

ちょっとヨソでは見ない独特なルーティーンでもって「おまちどうさま」と目の前に置かれる。並び始めてから着丼までは30分くらいだったかな。

全体的にコロモ薄め、ご飯も含めて天つゆでひと通り洗われて(?)いるのだが、つゆ自体は関東風とは異なって薄めなわりに全体に味付けが行き渡っているせいか、しっかりと美味い。食ってる途中で卵黄とコンニチハするのも佳きアクセントだ。

付け合わせの微塵切りのおしんこに味噌汁と箸を往復させながらハフハフと掻っ込んでいると、丼蓋の上に「はいよ」と、海苔で巻かれたエビが追加で置かれる。これがまた、うれしい。

店員さんは皆愛想がいい。そのへんも昔の記憶に沿っている。ただ昨今このご時世なるがゆえか、店内撮影は基本禁止の貼り紙があって、自分の丼だけは黙認されてる感じかな? 古い店だし、外観含めて煤けてる感はあるものの、不潔な感じではないので女性客も多い。

ランチタイムで浜松中心にいたならば、思い出したい店のひとつだが、カウンター10席くらいなのでせいぜい2〜3名までかなあ。カミさんやムスメも連れてってやらないとなあ。

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