幸あれかし

やや遅めの昼食をと、新宿パークタワーの裏をボンヤリと歩いていたときのこと。ガイジンがやってきて、「英語は話せるか?」。道に迷ったのかと思ったら、どうもそうではない様子。

 俺、インド人なんだ。今日、新宿で職探しに来たんだけどダメだった。雇ってもらえなかったんだ。それで今、一文無しで、昨日から何も食べてない……。

あ〜、そっちかよww。物乞い系は基本的に相手にしたくないんだが、好奇心からか、俺はこれからメシを食おうと思ってるんで、おごるからついて来いよ、と言ってみた。すると……。

 その申し出は嬉しいんだけど、日本のレストランはダメなんだ。チャイニーズも。

ふぅん、だったらそこの信号の先にカレー屋ならあるけど?

 その店のことは知ってる。でもダメ。彼らはネパール人だから。

そうだね。コックや店員がネパール人なのは知ってるけど、なんで?

 じつは俺、ムスリムなんだよ。だから……。

ああ、言いたいことはわかるよ。でも、インド出身のムスリムだなんて珍しいね。映画のスラムドッグみたい。

 ゴメン、嘘をついてた。本当はパキスタンから来たんだ。

おいおいおい。俺は20年以上前にパキスタンに行ったことがあるよ。イスラマバードとか、ラワルピンディとか、フンザとか。山を登ったんだ。18歳だった。

というわけでその後10分くらい、炎天下、カタコト英語と3歳児並みのウルドゥー語で会話した。(私はウルドゥー語については、「こんにちは」「さようなら」「ありがとう」「とても高い」「とても暑い」だけ知っている)。

日本人相手にはインド人と名乗るのが何かと無難なんだということ、やはり9.11が未だに影響しているということ、ネパール人もバングラ人も、料理店をやるときはインド料理の看板を上げることについて等々。府中には、カラチっていう名前のインド料理屋があると言ったら笑っていた。

へんな施しはしない主義ではあるが、これはしばらくの間、英会話の勉強ができた、そのお礼だと1000円だけ渡した。そんでお互い名を名乗り、握手をして別れた。

彼は、私に出会えたことを幸運に思う的なことを言った。私は、こんなのは幸運のうちに入らないさ的なことを言った。不思議そうな顔をしてたから、たぶん、言い回しが違ってたんだなw

後ろ姿を少しだけ見送り、エアコンのよくきいたパークハイアットで昼飯を食べた。彼は、どこかハラルフードを食べられるレストランまで歩いたのだろうか。

今にして思えば、うまく騙されただけなのかもしれない。あるいは、無一文の職無しという話が本当だとしたら、1000円など一瞬で消えてなくなる額。焼け石に水だ。いま大宮に住んでるとか言ってたし、2000円くらい渡せばよかったか。甘い?

なんか、善人っぽくまとめやがってとお思いかもしれないが(笑)、職場の元部下に「このCDすっごくイイんで聴いてみてください」と言われた、寺尾紗穂の「アジアの汗」という曲が本当にすっごく良くてビックリしたせいだ、きっと。

でも書きながら思い出したけど、むかし葛西に住んでいた頃、似たような感じでパキスタン人の集団と駅前で知り合って、盛り上がった勢いでフィリピン・パブに行ったことがある。みんなムスリムのくせに、チューハイ飲んでカラオケしまくってたけどwww 踊るポンポコリンとかwww

ああ、そんなことはともかく、寺尾紗穂のこと。

大貫妙子が唄がメチャクチャ上手になって、矢野顕子ばりのピアノテクを身につけたかのような、若い女性。頭もいい。シュガーベイブのベーシストの娘だそうで、そういう意味ではサラブレッドだ。子供の頃から良質なものに囲まれて育ったに違いない。

機会があれば、ぜひ。

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