ジミー・コリガン〜世界で一番賢い子供

もしいま、自由に使える1万円が財布の中にあるのなら……。

もちろんそれで、美味い食い物や酒を楽しむこともできるし、ちょっとした洋服を買うことだってできる。ユニクロに行けば、上から下まで全部揃う。そもそも、無理に使わなくたっていいじゃないかと仰る人も多いだろう。それはそれで、ごもっともだ。

だが、もしその使い道を委ねてもらえるのなら、いま私がお勧めするのは『ジミー・コリガン』全巻を揃えることだ。アメコミだからという理由で、この作品を読まないだなんてもったいなさすぎる。

どんなストーリーなのか、版元のプレスポップの紹介ページから一部引用してみましょう。

「ジミー・コリガン」の軸となるのは、現代に生きる孤独で感情の欠落した36歳の男ジミーが生まれてから一度も顔を見た事のない父親に会いに行く旅の物語である。しかし、直線的な語り口でなく、1890年代のシカゴから1980年代のミシガンまで時間と時空を超えた複数の物語が互いに絡み合って同時に展開して行くスタイルを取っている。

 
まあ、なんのこっちゃ分からんですよね。

正直言って、この物語を読み進めるのは、最初は苦痛を感じるでしょう。じっさい、相当な忍耐を必要とします。

コマの流れが(意図的に)分かりにくくなっているのもそうですが、妄想と現実が入り乱れ、いわゆるト書きもほとんどない。主人公のほかに、その父親、祖父、曾祖父といった人物が行ったり来たりして、相関関係をつかみづらい等々。

私の場合、どうにかコマを追い、ネームを読んで、最後までこぎ着けはしたものの、結局その後、3回は読み直しました。そして、紛れもなく傑作であると確信し、このエントリを書いているわけです。

なんというかね、この衝動は、初めてプログレッシブ・ロックに触れたときと似た感覚があるんですよ。特に、ピンク・フロイドの「ザ・ウォール」。あの2枚組を、歌詞カードを握りしめながら聴き入った感じ。さらには、アラン・パーカーが監督した映画版を観たときの感じ。

絵柄や登場人物の表面的なところだけを見てしまうと、どこがどう面白いのか理解に苦しむ人が多いと思うのですが、読み終わってみれば壮絶かつ感動的なクロニクル、そんな物語です。

全3巻。Amazonあたりでバラ売りでも買えますが、お願いだから1巻だけで評価しないでいただきたい。ここはひとつ、版元のプレスポップさんで豪華ケースつきの3巻セットをお勧めします。規模としては小さな版元さんですが、こういう誠実な仕事をしてくれるところがビジネスとして成り立ってくれないと、日本の出版業界に未来はない。

ちなみに「高価すぎる」と思うかもしれないけれど、翻訳モノであること、そもそも実売部数がそんなに見込めないこと、さらには装丁がムチャクチャ豪華なこともあるので、目をつぶっていただければと。

いやでも、この装丁はすごいですよ。上製の布張りで箔押し、エンボスと、昨今のお寒い日本の出版業界では考えられない豪華仕様です。

秋の夜長、ウイスキーでも嘗めながら、もう一度読み返してみようっと。

あ、もし酔狂な方がいて、ほんとうにジミー・コリガンを買ってみた!というのなら、細馬宏通という方が公開しているPDFファイル、「ジミー・コリガンの余白に(Marginal Note for Jimmy)」はぜひ目を通してみるといいです。

この細馬さん、何冊か本を出してらっしゃいますが、作家という感じでもなく、なんだか自由人なにおい。世の中には、面白い人がいっぱいいるなあ!

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