10月9日日曜日。
我ながらアホだなと思うのは、アラームをセットしたのが9時30分だったということ。確かに「昨夜はお楽しみでしたね」が過ぎたとはいえ、遅すぎるわ。
天罰なのか何なのか、結局あまりの寒さに7:30に目覚めて結果オーライ。さすがに出発が昼になっちゃうと予定通り下山できないからね。気温は氷点下までは行ってない。5℃くらいかな。
熾は潤沢に残っており朝の焚き火は苦労なく、簡単に湯を沸かすことができた。ま、寝てから起きるまで4時間少々なのだから当たり前か。
荷を減らすべく昨夜に続きアルファ米&ボンカレー。うーん、意外と飽きないなこれ。美味し。
急いだほうがいいのは確かなものの、食後のコーヒーは欠かせない。ちょうど豆を使い切り、最後の一杯をゆっくり愉しむ。

今日は乳頭温泉に降りるのだが、下山時刻によって色々と予定が変わる。というか、下山後の「打ち上げ」をどこでやるのかによって考え方が変わるのだが、あれこれ言っても仕方がない。出たとこ勝負ってことで。
出発は10:00ちょい前。焚き火の後始末で結構アルミが出てきて、念入りにチェック&回収する。いろいろ燃やしたからなー。
パッキングを終え、ザックを背負う。うん、軽い。
中ノ又の詰めはけっこう迷いやすい。比較的平坦だからか。ネット上の記録だと、姫潟という沼に突き上げちゃうパーティーも多いんだよね。

ほどなくco860あたりの入り組んだ平坦地で、昨日のカップル遡行者の焚き火跡を見つける。

道中イワナが走りまくり、時折暖かな陽光が差してくる。グリップの効くナメ状地形が続く。
中ノ又沢は悪場もなく、滝登りを志向する人にはまったく向かないが、私のような穏やかな沢を好む人にはピッタリだ。上流域にも大きな滝、要は魚留めがないため、稜線直下までイワナがいる。大深沢の関東沢と双璧をなす、究極の癒やし渓だ。

あれ?と思ったときには遅かったのだが、co999に突き上げる枝沢に入ってしまう。確かにこのあたりは枝沢の入り方が複雑で迷いやすいね。
テヘペロ的に引き返し、方位を確認し、仕切り直し。
ところが今度は南に寄りすぎて、本来のルートである稜線鞍部に突き上げる枝沢ではなく、大白森山荘に向かっているようだ。

また引き返すべきか、しばし考えたが、いっそこのまま行くべきではないかと思い直した。
じっさい、そこらのヤブをちょっと漕げば登山道に出られそうでもある。だけど、このまま水場筋に突き上げて小屋にたどり着くことができれば、そのほうが愉快だ。
2010年に初めて大白森山荘を訪れたとき、その水場の水量に圧倒された。稜線直下なのに、こんこんと湧き出す力強さ。ブナの森の保水力がとても印象的だった。
あの場所に突き上げるなら、最高じゃないか。秋だから水量はずいぶんと少ないかもだけども。
そんなエクスキューズを脳内で一瞬でまとめ、歩みを続ける。高度を稼ぐ。水量がどんどん乏しくなる。完全な源流域、水源の最初の一滴が近づいてきている。沢登りの、最高の醍醐味だ。こんなところまで来てるのに、まだ足元でイワナが走る。息は上がっているが、笑みがこぼれる。
やがて、赤テープが目に入り、ホースが据えられた水場に到着した。予想通り盛夏の頃の水量には程遠いが、明らかに大白森山荘の水場だ。

踏み跡をたどるとやがて木道となり、大白森山荘が現れた。うわー、懐かしい! 小屋外のデッキは苔むしてすっかり古びてはいるが、やった!辿り着いたよまたここに!

独り、歓喜のほとばしり。感無量である。

こんなオッサンだけど、ここまで無事に歩き続けることができた。それが本当にうれしい。ペースはそんなに速いわけじゃないけど、膝や腰、体の痛みなんかは特にない。寝不足なだけ(笑)。うん、まだまだやれそうだ。
中に入り、2階部分にあった記録ノートを手に取り、12年前に来たときの記載を見つける。写真を撮って、あのときの仲間に送ってやろう。
小屋をあとにしたら、縦走路を淡々と辿るだけだ。ただし、笹ヤブがけっこうキツい。
大白森のグレートフラットは草紅葉というかなんというのか、盛夏であれば濃緑な湿原が黄金色に輝き、風にそよいでいた。

振り返れば曲崎山から大深岳の稜線が見える。

南西方面に見える秀峰は鳥海山だ。
行き先には雲がかかっていたものの乳頭山が聳える。

自分以外誰もいない平坦な木道を、誰にも聞こえない歓声を上げながら歩く。こういうのもいい。最高に高揚した気分で、天空の別天地を進む。
その後の道は、湿原地帯らしく嫌らしいぬかるみが多く、くるぶしまで沈む泥炭に悲鳴を上げつつ、細かなアップダウンに悪態を付きつつ、熊の影におびえながら歌いつつ、大釜温泉の分岐で10人ほどの中高年登山グループに遭遇しつつで、どうにか無事に下山した。

総括は別記事にて。
10月9日 コースタイム
co844付近 09:50
大白森山荘 11:38
大白森入口 12:38
大白森 12:50
小白森 13:38
大釜温泉 15:58