地熱発電所ゲート前で、雫石からのタクシーを降りる。運ちゃんは「まえに来たときは、ゲートが開いてたから中に入っちゃって、すんげえ怒られたわ」と笑っていた。そらそうだ。
ゲート前に停まっているクルマの多いこと。7台くらいあるんじゃないか。これ全部、釣り人だったら嫌だなあと、若干暗澹たる気分でスタート。

発電所を過ぎると、林道周辺にタケノコを多数発見。もちろん、焦って手折るほどシロートではないが、狙いドンピシャでついニンマリしちゃう。例によって林道屈曲点から沢床に降りたが、昨秋に比べると踏み跡が不明瞭で、半ばヤブ漕ぎとなったのは反省点。
ネオプレーンのソックスを履いてるからか、水はそんなに冷たくない。荷物が重いこともあるし寝不足で疲れてるので、ゆっくり歩く。
いつもの枝沢で水補給。丑首で一本。

何度も書いているが、この滝はしみじみ佳い。いつまでも見ていられる。Insta360であれこれ試しながら撮影していたら、上流の方に人影が。どうやら釣り下がってきているようだが、そんなんで釣れるのか?
挨拶して、釣れてますかー?と問うと「全然だねー」とのお返事。脈釣りのようで、かなり深いところまで沈めてアタリを探っている。
すみませんが、先に進ませてもらいます!と明るく元気よくお伝えすると、気をつけてね!とレスポンス。その先で2人目が対岸で同じように脈釣りしてジッと動かない。会釈のみして進む。
さらに先で3人目。このおじさんとはちょっと話をしたけれども、どうやら皆さん、お函の手前まで釣り上がって、そこから引き返しつつ探っているっぽい。
大石沢まで行けば、魚影濃いと思いますけどと伝えたが、ここまで会った3人とも純然たる釣り人スタイルでお函までが釣るエリアという認識のようだった。まあ釣り師と、コアな釣り師と、沢屋っぽい釣り師とで考え方もスタイルも異なるということなのだろう。皆さん竹編みの活かし魚籠みたいなのを腰にぶら下げてたりね。カッコいいよね。
ほどなくお函入り口。いつものトラロープがぶら下がっていて、ヨッコラショと越えていく。
ここは取っ掛かりのところの落口が、ちょっとイヤらしいんだよね。こんど来たら細引きでフィックスロープ作ろうかなあ、などと考えるが、釣り人が容易に突破できるようにしちゃうと、それはそれでナニかなあとも思う(笑)。
相変わらずの渓谷美を堪能しながら歩く。やはり盛夏に比べると緑がやや淡いというか、フレッシュな感じがする。キレイだ。

ジャブジャブと渡渉したり、ヘツったり、楽しみながら歩く。この一本が本当に至福だ。美しき水の色。美しきゴルジュ。美しきブナの緑。嗚呼、どこまでも美しすぎる葛根田。


やがて大石沢出合に到着。
眠い&疲れたってことで、もう今日はここでいいやとザックを下ろす。結局、昨秋と同じ場所でツェルトを広げることにする。薪もそれなりに転がってるし。

ツェルトを張ったら、まずはタケノコ。出合の大石沢右岸にある高台のヤブを探索する。ここは朽ち果てたブルーシートなんかも残置されてたりして、整地さえすれば幕場としてはいい感じなのだが、とにかく笹竹がやたらと多いってことは昨年調査済みだ。
タケノコいっぱいあるかもね〜とガサゴソしていたら、案の定、いい感じのを数本ゲットできた。イヒヒ。

ちょっと食べられればそれでいいので、本日のタケノコ採りはこれで終了。お次は岩魚ちゃんだ。
ここまで、羽虫がそれなりに飛んでいたので、テンカラの仕掛けを装着。ていうか、餌釣り用の餌など最初から用意していない(忘れたとも言う)。テンカラがダメだったら、どん兵衛の麺でも針に付けるかくらいに思っていた。
大石沢に入り、ちょっとした落ち込みの淀んだところを狙ってみると、二投目くらいで八寸サイズが食いついてきた! が、釣り上げたあとボヤボヤしていたらバレて逃げられるw
まあ、この感じならいくらでも釣れるっしょと、大石沢上流へと釣り上がる。意外と良いポイントがなくて幅広ナメ状のところを越え、流れが安定してるところに毛鉤を落とし込んでいたら、またしても八寸サイズが。今度は丁寧に取り込んでタマネギ袋に入れて無事ゲット。

食べ頃サイズだし、これ以上サイズアップを狙うのもナニだな〜と、納竿することにした。賞味15分くらい。短っ。
次のお仕事は薪集め。タマネギ袋に入れた岩魚ちゃんを逃げられないように石で固定して、細引き持って再び大石沢上流へ。三往復くらいして、それなりな量。

まだ日は高い。焚火をおっ始める前に、岩魚を捌いて食っちまおう。
ハラワタとエラを外したら皮をむいて、三枚に下ろす。持ってきた油の量がそんなにないので、頭は捨てる。

オリーブオイルでニンニクを炒めて、半身をソテーにする。その後、中骨と皮をじっくり揚げ焼きに。ウイスキーにトゥワイスアップ気味に水を足し、酒宴を始める。うーん、久々に食ったけど、やっぱり美味いなあ。持ってきた、マジカルスパイス的な香辛料もいい仕事をしている。
ウンウンと頷きながら平らげたら、残った半身をタタキにする。細かく切って、ネギと生姜を刻んで、ショーユをジャバッと和えたら出来上がり。ウィスキーよりも日本酒なんだろうけど、これはこれで意外と合う。ていうか、タタキうめー。あっという間になくなる。


八寸サイズの岩魚をこうやって食べると、それなりに腹が満たされる。おかげで夕食予定だったボンカレー+アルファ米の出番はナシ。食糧計画は、もっとシビア目に考えるべきだぞ。
フライパンをロールペーパーで拭いて、着火剤とする。
そろそろ夕暮れかなという時合。ノコギリ片手に薪を切りそろえて、着火する。ふと、幕場の焚火跡をよく見ると、煤けたところから新芽が吹いているではないか。ということは、昨秋の自分以来ここで焚火した人はいないのか……。つまりは、このへんに転がってた薪も昨年自分で集めたものに違いない。
昨秋の夜、酔っ払ってぜんぶ燃やし尽くしちゃって、朝また集めに行ったんだよな。そのときの余りだ。いやー、過去の自分からのプレゼントかぁ。
ニヤニヤしながら火を熾す。至福の時間。天気もいい。暑くもなく寒くもない。素晴らしいぞ。

焚火にタケノコを放り込んで、アチアチとか言いながら皮を剥いて頬張る。うん!美味い!これはいいねえ。

空は晴れており満天の星。満ち足りた気分でウィスキーをあおり、夜は更けていくのであった。
6月7日 葛根田地熱発電所 09:05 丑首 10:42 お函入口 11:11 大石沢出合 12:31