葛根田川中ノ又沢2023新緑ノ候 day3

昨日は朝陽の眩しさで目が覚めた。そしてこの日、やさしく自分を起こしてくれたのは、顔面を打つ冷たい雨。朝5時のことである。

強風でツェルトがめくり上がり、雨が降り込んでいる。シュラフの頭の部分や銀マットが雨に濡れている。

う、ううう……。


こういうときの行動だけは速い。バッとシュラフを抜け出して、張り綱を低めに張り直す。

強い雨だ。事前の予報(大白森山荘)では確かに3日目にかけて下り坂だったが曇だったはず。降ってもLightRainということではあったが、悪い方向に変わったということだ。

今日、本来の予定であれば頑張って田代平山荘まで行くつもりだったが、悪天候の中、長時間行動するほどの元気はない。タープを打つ雨の音を聞きながら即断する。うん、今日は大白森山荘まで行ければいいや。雨風しのげるし。


さて起きてコーヒーを淹れるか、どうするか。

結論は、二度寝。大白森山荘までなら2本か、かかっても3本である。この適当さ加減が自分らしい。

シュラフがちょっと湿ってるので、体を奥までねじ込む。あー、あったかい。気分が安らぐ。昨夜まで、今日の行動予定を脳内でシミュレートしながら気合を入れていたというのに、その重圧(?)から開放された(自ら開放したのだが)こともあり、幸せなまどろみを楽しむ。


次に目覚めたのは8時。雨は相変わらずだ。まぁいいけど。

朝支度。とりあえず雨中で焚火をやるかどうか。薪は充分にあるものの、雨でぐっしょり濡れている。ゴミを燃やす燃やさないの違いでしかないので、とりあえずガスを使って湯を沸かし、コーヒーを飲む。はー、落ち着く。

せめてもう少し雨脚弱まらないかなー、と空を睨むが、こればっかりはどうしようもないよね。ラーメンを作ってモソモソと食べる。食後にまたコーヒーを淹れる。完全にまったりモードだ。

戯れに焚火を熾そうとするが、気合が入らない。まあいいかと諦め、空いたジップロックをごみ袋としてノロノロと荷物整理しながら、なんとなくのパッキング。こういうときの自分の動きは本当に鈍い。つい笑ってしまう。


雨が若干弱まった気配があったので、ヨシっと11時出発。今日はゆっくりと、ツメ部分を丹念に調べながら歩くとしよう。雨具を着ての行動も久しぶりだなあ。


30分ほどで奥の三又。昨年もそうだったがつい本流に入りたくなってしまうが、正解は手前の左から流れ込んでくる枝沢。この周辺、幕場になるかと言われると正直微妙なところなんだよね。

河原状のところは、めったに増水しなさそうではあるが、ここで寝るのは気が進まない。一段高くなっているところは、どこも一定の土木整地作業が必要になりそうだ。

そう考えると、定宿と化しているco844は、枝沢も流れ込んでいるし、増水も心配ない。スペースが狭いけど1人なら充分だし、今後もお世話になる機会がありそうだ。もうちょっと空が開けてると気持ちいいんだけどねぇ。

幕場調査は今後も継続的に行うとして、ヨッコラショと小屋に突き上げる枝沢をめざす。


それにしても、この季節は初めてだけど盛夏とは植生がまるっきり違っていて面白い。ザゼンソウというかミズバショウというか、それ系の大きな葉の植物がやたらと多く、ワサワサしてる。なんていうか、植物が、葉が皆フレッシュなのですね。


やがて小屋の水場へと続く流れに行き着いた。地形図やGPSと照らし合わせて「なるほどココだよな」と。たぶん稜線の道よりは水場筋を登ったほうが笹薮に悩まされずに済む。結果、昨秋とまったく同じルート取りとなるが、別にそんなの構いやしない。迷わず進む。


水場筋に入ると、特徴的な、土壁をえぐったような地形が出てくる。うーん、流れ自体は細いけど、これは水流が削ったのだろうか。

このまま歩けばそのうち水場……なのだが、ホースを探していたのに見つからないまま小屋へと続く小径に出てしまう。あらら?

むちゃくちゃ滑る木道を慎重に歩き、いったん小屋に行って荷物を置いてから水を汲みに戻ろう。


1階のベンチで荷物を整理して、干せるものは干す。ポリタンを持って、再び登ってきた水場へと向かう。

やっぱりホースはない。消えている。雪で流れてしまったのだろうか。水流に足を突っ込んで水を濁らせないよう脇を慎重に下り、チョロチョロと流れているところでしばらく待ってからペットボトルで水を汲み、ポリタンに移していく。

まだ雨はそれなりに降っていて、風も強い。周りを見ると、そこらじゅうにタケノコが生えている。そういや小屋前のデッキにもいくつか顔をのぞかせていたっけ。ここまで取りに来る人はいないのかもなあ。

小屋に戻り、本格的に装備を干す。といっても湿度は体感でも100%近いので朝まで干して乾くかどうか。ツェルトは最初、外の階段に広げたが、雨がかかるので小屋内に入れる。もし人が来たらと思うとアレだが、そのときはそのときだ。銀マットも含め、ざっとすべての装備を広げて物干しロープを完全に専有する。


一段落ついたので夕食、ピンチ(非常食)を開放する。コンビーフとマヨネーズ、あとサラミなんかを出して、まだ全然明るいのに小屋外の階段上で独り宴会の始まりだ。

ンー、コンビーフマヨの美味なることよ! ちょっとずつチビチビとスプーンですくって口に運ぶが、ウィスキーとの相性も極まれりってことであっという間に無くなってしまう。

陽もゆっくりと傾いてきたが、雨はまだ降り続いている。どうやら今夜は貸し切りだ。2階にシュラフを広げて、小屋のノートを眺めながら眠りについた。


……が、夜半すぎに尿意を覚えて目が覚める。まだ雨は降っているが、酔いも抜けて、またすぐ寝付けそうもない。酒はもう、全部飲み干してしまった。仕方なくじっくりと小屋のノートを読み耽ることにしたのだが、これがけっこう面白い。

大白森山荘の設計者の方や、むかし所属していたワンゲル部の書き込みを発見してニヤニヤする。

やはり水場は、ここ近年で急激に痩せてきているようで水場関連の記述が目立つ。うーん、何が原因なんだろう。温暖化だろうか。かつては小屋脇の沢状地形からドバドバ出ていた水が、いまや沢筋を降りてチョロチョロした水流が辛うじてある程度。自然は気まぐれってことなのかな。

田代平山荘の水場も枯れて沢筋を往復1時間らしいし、山域全体で何かが起きているのかもしれない。


文字を追っていたら次第にウトウトして意識が混濁した。

6月9日

co844付近(C2) 11:01
大白森山荘 13:00

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