パンスト含めて足回りを固めて、ザックにはザックカバー(新品だから……)、雨具も上だけ着て、いざ。
二口の大東岳登山口からは、大東岳にストレートで行くルートと、樋ノ沢避難小屋まで沢沿いに進み、そこから大東岳に突き上げるルートがある。前者を表コース、後者を裏コースというそうだ。
つまり、裏コースを行く。夜中まで降り続くみたいだからハナから小屋泊まり前提。登山道はいくつかの沢を渡渉することになるが、そもそもが沢靴だしまったく問題ない。怖いのは、しつこいようだがヒルだけだ。
一本目の沢を横切るところで、いきなりのコレである。

ほとばしる濁流。こりゃ、本流はかなり増水してるだろうな。
そもそも大行沢はナメナメな沢ってことで有名で「ウォーターウォーキング2」のカバー写真がまさに大行沢なのだが、その天国のナメはいま、コケたら最後、ツルーっとどこまでも流されるような地獄のナメと化していることだろう。

大雨に打たれながら、淡々と歩く。途中に「雨滝」という、エンジェルフォールにも喩えられる滝があって、普段なら優しいシャワーのように登山道一帯を湿らせて涼を与えてくれるらしんだが、今日はうん、ただの滝だね。

途中、白滝沢かな、ちょっと本流がどんなもんか見に行ったけど、とてもとてもな茶色い奔流。そそくさと登山道に戻る。

6月の葛根田の大白森山荘に詰めたときもそうだったが、雨中の行動はしんどい。単純に気が滅入る。雨具を着てるとはいえ、顔面を叩く雨、額を落ちる汗、冷たいのと生暖かいのが同時に来る感じ。まあ、最悪ですわ。
定期的なヒルチェックも欠かせないから、ストレスも貯まる。登山道じたい、ダーダーと水が流れている。道中慰めてくれるのは、紫陽花くらい。枝沢はどれも、ゴーゴーと流れている。

それでも、たちどまって周囲を見渡すと、ブナの森はじつに画になる。枝葉に降り注いだ雨が幹を伝って流れている。こうやって水を蓄えて、森を作るのだ。愛おしい風景ではある。
そうこうするうちに到着。じつに立派な小屋だ。

小屋前の広場では、しっかりした焚き火跡がある。公に許可されているというわけではなかろうが、なし崩し的に燃やしちゃうんだろうな。水場の水もクリアで問題ない。よしよし。
無人の小屋の片隅に陣取って、濡れた衣類を干して荷物を広げる。釣りの道具は一式持ってきていたけれど、この増水具合ではやる気が1ミリも起きないので、早々に足回りの装備を解除。真っ先に行うのは、やはりヒルチェックだ。
うん、まったく無事。登山道自体が沢のように水が流れていたからか、さすがのヒルも寄り付けなかったのかもしれない。イカリジンの虫除けは雨水で流れていただろうから、効果の程は不明だが。
コーヒーを淹れる。焚火できないので豆カスなどゴミが出る。あらかじめ新聞紙を畳んでゴミ箱にしたものを大量に持ってきていたので、そこにポイポイと捨てる。
気温は小屋内で20℃くらい。ずっと雨に打たれてはいたけど寒いわけでもなく暑くもない。ちょうどいい。それでも、温かいコーヒーはいい。ホッとする。「濃いめ」前提で事前に豆の軽量をしてきたので、満足感も高い。
雨はまだ降っているが、コーヒーカップ片手にサンダル履きで傘をさして、沢の様子を見に行く。樋ノ沢の名前の由来と思われる桶状の流れは茶濁の強い流れ。その先のナメも見るからに水量が多い。明朝もこのままだったら、登山道で山を越えるしかないかな、とやや憂鬱になる。
小屋に戻り、ディナータイムとする。といっても、湯を沸かしてペヤングを作るだけだ。今回、茹で汁は捨てずにインスタントのスープにする。これがなかなかよい。むかし、バゴーンがこんな感じでスープの素が付いてたんだよな。いまでも東北地方では根強い人気があるとのことだが。

ペヤングをすすっていたら、やたらとデカいザックを背負った大学生の5人パーティーがやってきた。先客の自分がいたからか、雨具など濡れたものは小屋内に干すものの、この雨の中、外でテントを張るという。あるいは、干していたパンストに気づいたか。
山岳部なのかワンゲルなのかわらかないけど、仙台周辺の大学なのだろう。団配で9リットルの水を持っていてるとか聞こえてきて、2リットルのペットボトルをズラリと並べていた。まあ、色んな流儀があるってことだ。
ちょっとだけ会話をしたけど、彼らは面白山高原駅から南面白山、小東岳を越えて小屋まで来たようだ。明日は大東岳を登り、面白山まで行って下山するとか言ってたかな。なかなかにハードな行程。
オッサンはマイペースで、ペヤングを食い終わったらやおらウイスキーを飲み始める。今どきの若者は酒を飲まないようだが、彼らはどうなんだろう。まあ、ペヤングやらウイスキーやらスメハラだったらすまんな、と思いつつ、勝手にグイグイやる。サラミを齧る。
見てると、なんというか、いちいち小屋のドアを開けっ放しで出入りしている。小言を言おうかとも思ったが、虫もいないし実害もないしでオトナ気ないかと思いとどまる。まあ、色んな流儀が(略
そうこうするうちに、大学生たちは雨の中テントに籠もったようで、小屋で独りとなる。となれば、読書だ。LEDのソーラーランタンを灯し、ウイスキーをチビチビやりながら、出発前に畏友・吉森大祐先生に献本いただいた新作を読み耽る。

ゆっくりと日が暮れる。
19時くらいにはシュラフに潜り込んで寝てしまった。
7月8日 秋保ビジターセンター 10:37 大東岳登山口 10:41 白滝入口11:43 雨滝 11:56 北石橋コース入口分岐点 13:09 樋の沢避難小屋 13:38