二口山塊大行沢樋ノ沢遡行記その③

早めに寝たからか、2時前に目覚めてしまう。うだうだとシュラフの中でモゾモゾするが、どうにも目が冴えてくる。まあいっかと諦めて上体を起こし、しばらくボーッとする。

エイヤとシュラフから抜け出して、湯を沸かしコーヒーを淹れて飲む。今回、濃いめ3杯(400ml×3)ぶんの豆を持ってきており、これが2杯目だ。

小屋の外に出ると、雨は止んでいた。テントの大学生たちも起きているようで内側からエレキ(ヘッドランプ)が光ってる。


いつものようにゆっくりと荷物を整理して、ラーメンをこさえる。定番の、サッポロ一番塩。安定の美味さ。

なんとなく空が白んできたタイミングで食後のコーヒー(3杯目)を淹れていたら大学生たちはもう出発のようで、小屋で干していた雨具を取りに来た。相変わらず、ドアを開けても閉めない若者たちを尻目に沢の様子を見に行くと、水量こそまだ多い気はするが、水の濁りは取れている。まあ、これなら行けるっしょ。

大学生たちは4時前にはエレキを点けて出発していった。だが、小屋内に雨具の収納袋をふたつ、あと空のジップロックを忘れていった模様。ったくもう。今日は面白山高原駅に下りるとか言ってたから駅まで持っていってあげようかとも思ったが、タイミングよく会えるとも限らないので、ぐぬぬと窓際にまとめておいた。いつか取りにきたまえよ。


縦走とは異なり、沢を詰めるのであればキッチリ日が高くなるのを待つべきだ。ゆっくりとコーヒーを啜りながらパッキングを進めて6時に出発することにする。

今日は沢を詰めて稜線に出たら、南面白山を越えて面白山高原駅に下山する。仙山線は1時間に1本程度のローカル線だが、もし可能なら12:59の山形行きに乗れると色々塩梅が良い。とはいえ無理に急がないように、安全第一で歩くとしよう。

出発前に小屋の掃除と忘れ物チェック。水も汲んでおく。

冷たくてよい水場

この小屋はそれなりに利用者が多いようだが、その弊害としてトイレ問題がある。備え付けのトイレはないため、小屋の北側にトイレットペーパーが多数廃棄されており、そのあたりで大小問わず用が足されていることがわかる。

穴を掘れよとか、そういうレベルではなく、新緑や紅葉など折々で多くの人が訪れると、結果こうなるのだな。かく言う自分とてそのうちの一人ではあるのでなんともいえないが、例えば葛根田や北東北の沢をメインに数十年歩いてきた身としては、久しぶりにこういう「現象」を目にした。人が多い山域は、やっぱり苦手だ。みんな沢でいたせばいいのに。

小屋の後ろに見えるのは小東岳

気を取り直して、6時ジャストに出発。もちろん今日も(いや、今日こそ)パンストをしっかり履いている。

大行(おおなめ)沢は、ここから樋ノ沢と名前を変え、稜線にまで続いている。歩きはじめからもう、ナメに次ぐナメ。大行沢の核心部は結局歩かずじまいだったが、樋ノ沢のナメもなかなか立派なものだ。

ていうか、あまりにもナメが続くのでいい加減うんざりするというか、実はナメってその場ではウヒョー!って気分がアガるんだけど、突然深くなってるところがあったりしてそれなりに気を使うし、ラバーの沢靴なせいかちょっと滑りやすいし、実はあんまり得意じゃないことを改めて認識。

そういえば若い頃行った奥秩父のナメラ沢も、コケまくって大変だったな〜と旧い記憶が蘇る。

今回は樋ノ沢避難小屋より上流での、幕営適地と岩魚の棲息調査はひとつのテーマでもある。来年以降、また仙台から山を越えて山形側に降りてサッカーを見に行くこともあるかもしれないしね。

そういう意味では、小屋から15分程度歩いたところ(co760m)にひとつ、あとco880あたりの二股はツェルトを張るのにちょうどよい感じのスペースがあった。特に後者は、周辺で岩魚もビュンビュン走っており、なかなかに良さげ。

ただ、サイズは小さめかな。見た所、せいぜい八寸程度。まあそんなんでいいよね。再訪する機会があったら小屋泊ではなくてツェルトを張って焚火ができるといいな。


樋ノ沢自体はそんなに悪場もなく、濡れるのを厭わなければ基本水線突破できるし、濡れたくなくてもちょっとした高巻きで回避できる程度なので、初心者にはうってつけだと思う。暑い日だったら、ジャブジャブ遡行したくなる。仙台在住の人がうらやましい。

たまに雨がパラつくなか、時折日差しもあったりして、快適に歩く。

左からのナメ滝を稜線へと詰める

そうこするうちに、稜線にショートカットできるであろう枝沢(ちょっとしたナメ滝)に到達。勾配は急になるがググッと詰めるとやがて水が枯れて、数分のヤブ漕ぎで登山道に出た。

南面白山まで1本ちょい。汗をかきながら勾配を稼ぐ。山頂ではトンボが乱舞。晴れていれば展望がいいのだろうな。山形方面の平野部はしっかり展望が効いて、しばしボーッとする。

下山路は基本しっかりしているのだが、途中の岩場のトラバースするところで赤テープが妙に外れたところにあったりして、谷側に誘い込まれてやや難儀した。むー。冬用なのかなあ。


グングン高度を下げていくと、いきなり廃墟と化したスキー場が出現。マニアなら歓びそうな停まったままのリフトであったり、レストハウス跡などをやり過ごしてアスファルト道に出た。

少々物悲しさがある

電車の時間を気にして焦っていたが、それなりに余裕を持って駅まで下山できた。ちょっと膝が笑っている。

公衆トイレ脇で装備解除して、洗えるものはトイレの洗面台で洗わせてもらって、パンストは脱いでごみ袋に突っ込むなど、装備と身だしなみを整える。もちろんヒルチェックは念入りに行ったが、本日も被害ナシ。よかった〜。気にし過ぎなのかもな。

面白山高原駅は、仙台側からはトンネルを抜けた最初の駅となる。ここもまた、トンネルをぬけたらそこは、っていうヤツか。

人の気配がまったくない、自分しかいないホームで12:59の山形行きに乗り込んで、楯山駅で下車。どちらも無人駅であり、あれあれ?と思う間に列車は行ってしまい、気がついたら立派な無銭乗車となってしまった。

どうやら正解は、車中で車掌さんに直接支払うというものだったようだが、仕方がない。ていうか、面白山高原駅で乗車駅証明みたいなものもなかったし、そもそもSUICAが使えると思っていたのだが、まさに初見殺しである。


楯山駅からは徒歩で事前に調べておいたラーメン屋に移動して、独り打ち上げ。なかなかの人気店のようだ。

ビールを頼んだら出てきた突き出しのメンマが美味い。次いで餃子が出てきたタイミングで味噌チャーシュー麺をオーダー。これがまた、山形らしく辛味噌が乗ったステキな佇まいで、じつに美味かった。

雨に祟られはしたが、なかなか楽しめた、良い沢だった。

7月9日

樋ノ沢避難小屋	06:00
co880二股		07:57
最終分岐	08:39
稜線	08:55
南面白山	10:07
面白山コスモスベルグ	12:10
面白山高原駅	12:18

後藤ユニでナメに立つオッサン

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