味を守ることの難しさ

高校生の頃、友人に「うまいラーメン屋がある」と連れて行ってもらった。いまも有楽街にある「かに道楽」の向かいの、ちょっとコ汚い店構えが印象的だった。

それが「みやひろ」との出会い。

浜松での青春時代は、カレーといえばボンベイ、ラーメンなら断然、みやひろだった。ちなみにボンベイについては過去も何度か書いているのだが、実はみやひろについてのエントリは皆無。そこには、ちょっとした歴史的経緯も影響している。

ああ、あのカレーをもう一度でいいから食いたい…

あまり詳しいわけではないので間違っているかもという前提なのだが、私が高校生の頃通っていたのは、おそらく「本店筋」である。この本店は、その後有楽街(浜松ではわりとデカい繁華街)のメインストリートに大箱を構えることになるのだが、そのあたりからちょっとずつ色んな変化が目につくようになった。

もともとは昔ながらのラーメン屋よろしく、チャーシューメンやワンタンメンなどのプラスアルファはあれども、基本は醤油ラーメンのみ。とにかくシンプルなメニュー構成だった。

それがいつの間にか餃子のようなサイドメニューが加わったり、味の種類が増えたり(味噌やらこってりやら?)。おつまみ系みたいなものも、徐々に充実していったような記憶がある。

箱は借り物だったのだろうし、客単価を上げようとすること自体を否定するものではない。だが肝心の、基本となるラーメンの味が落ちたと感じられたのもこのタイミングだ。

元の店舗は夜になると閉じていたので、街中で飲んでシメにみやひろが食えるなら有難い〜と感謝もしていたが、ベロベロに酔っ払った舌でさえ、味の変化は明確に感じられた。

大学生、社会人になって帰省するたびに食べていたものだが、こうなると徐々に足は遠のく。


やがて、この有楽街の大箱が閉じた。定番のパターン。ああやっぱり……と残念な気持ちになる。その後、より駅近の千歳のほうに小規模ながら復活して数年は頑張っていたようだが、それも先日閉じられ、今ではメイドカフェ(!)だそうだ。

一体どのタイミングかは分からないのだが、少なくとも千歳に移転した時点では「みそのグループ」という地元浜松の飲食店グループが運営母体となっていた。

もともと個人店だったはずだが、有楽街に移転したタイミングなのか、その後しばらくたってからのことなのか、いずれにせよ何らかの理由で店自体を売却したということなのだろう。

個人が立ち上げた人気店を企業が買うというのはよくあることだし、店主の高齢化だとか後継者問題だとか、色んな理由がある。同じく浜松では有名なラーメン屋「三太」も、プレスタワーの横っちょでやっていた頃から好きだが、今では地元不動産グループに組み込まれているしね。

というわけで、高校生の頃から愛してやまなかったみやひろは、紆余曲折の末に消滅してしまった。


ただしそれは、あくまでも「本店筋」のハナシ。そう、実は「支店筋」はしっかり生き残っているのである。詳しい浜松市民にとっちゃ「何をいまさら大袈裟に…」てな話なわけだが、あの味は今では「布橋みやひろ」に受け継がれているのだ。

布橋みやひろは、もともと「みやひろ支店」として現存する店舗の近所で営業していた。つまりは、本店と支店が駅近とちょっと離れた場所とで共存していた時代があったのだ。

布橋みやひろの店主の方のインタビューを、ネットで読むことができる。移転を機に店名を変えたのも、いろいろと大人の事情があったのだなと察せられる。
https://kigyou-guide.com/nunohashi-miyahiro

ちょうど移転する直前の記事のようだが、もともと東京でサラリーマンをやっていたが母親に呼び戻される形で店を継いだとある。また、自分の味と違うと怒られたみたいな記述もあり、こちらは昔ながらの味をしっかりと継承していることも伝わってくる。


実際、ここのところ帰省するとムスメが「みやひろに行きたい」とよく言う。味は、記憶にムラはあるものの、高校生の頃に食ってたものとほぼ遜色ない印象。

自分の場合、チャーシューワンタンメンの大盛りがデフォルト。ちゅるんとした大きなワンタンは、やっぱり外せないよなと思う。スープはオーソドックスな豚の出汁をメインとしたもの。鰹節なんかも香る気がするが、これが味わい深く、とにかくいつまでも啜っていたくなるような。

この一面敷き詰められたチャーシューの下にワンタンが隠れている

先日は、つい出来心で「焼きそば+チャーシューワンタン」をセットで頼んでみた。

ここの焼きそばは味が付いていない。中華麺をパリッとするまで炒めた上にラーメンの具が乗っており、好みでウスターソースをかけて食べるというもの。一部で好評のようで、気にはなりつつ、やっぱりいつもスープと一体となった普通のラーメンを頼んじゃうんだよね。

そこでひらめいたのが、麺が入っていないワンタン系とセットで頼むという荒技。何なら、麺をワンタンのスープに浸してつけ麺チックにもできるか?と我ながら天才なんじゃないかと思いつつ食券をポチってしまったわけだ。

右はただの(?)チャーシューワンタンなので麺は入っていない

結論としては、うーん、悪くはないんだけど次回は普通にチャーシューワンタンメンにしようと思った次第w まあでも焼きそば単体としては、小麦の香りも感じられパリパリ食感と相まって普通に美味であったことは付け加えておく。


いまの店主も高齢のようだが、後継者はいらっしゃるのかしら?

できることならこの味は守り続けてほしい。それが今般、非常に難しいことであることは重々承知している。

世代を超えて愛されるラーメン屋があるということ。これほど地域にとって幸せなことはないからだ。

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