盛岡・八幡平紀行2010〜その3
これまで何度、松川温泉の湯につかったことだろう。
多分5〜6回かな。このエリアの沢をツメて稜線に出て、下山するのが松川温泉ということが多いのです。バス停のところにある峡雲荘でひとっ風呂あびてビールを飲み、盛岡へと出るパターン。今年の夏は例外だったけれど、白濁したお湯がとてもイイ感じの、風情ある温泉という印象だ。
松川温泉には三軒の宿がある。登山口そばの峡雲荘と、谷に下りたところにある松川荘、やや下流のほうに離れて松楓荘。今回は、松楓荘に宿を取った。
なんの予備知識も持たずに訪れた人(自分のことですが……)は、この宿にはかなりびっくりするんではなかろうか。相当なインパクトだ。
まず建物がなんというか、鄙びてるにもほどがあるというか、要するにボロい。館内がところどころ、水平や垂直が取れていない。ギシギシする。部屋で寝ていると、廊下を歩く人の足音の振動で揺れる。
なのに、まったくイヤな感じがしない。あ、これ褒めてるんです。オレ大好きだから、こーいうの。なにしろ名うての豪雪地帯。文字通り、長年の風雪に耐えてきたという意味で立派な建物である。キレイな宿に泊まりたければ、ヨソに行けばいいだけの話だ。
宿側のほうも、無理にリフォームなどするつもりはなさげ。その潔さがまたよい。建物自体の築年数はわからないが、50〜60年じゃきかないんじゃなかろうか。なお、こちらは松川温泉の中でも最も古くからある宿で、280年の歴史だとか。貫禄。
正直に言おう。最初に部屋に通されたとき、「失敗したかも……」と思ったのは事実だ。しかし時間が経つにつれ、この宿の味わい深さが徐々に分かってくる。
なにしろ風呂がいい。内湯はやや狭め。脱衣所も簡素でどうってことないのだが、露天は最高だ。一応混浴。すぐそばを沢が流れ、せせらぎを耳にしつつ白濁したお湯に浸かり、空を見上げる。濁音付きの母音がとめどなく口から漏れてくる。
沢にかけられた吊り橋を渡ると、露天というか洞窟風呂ってのもある。岩をくりぬいてあって男女入れ替え制。落石防止なのかネットが張ってあるのは残念だが、これこれで面白い。
あとね、水がすごく美味いですよ。ところどころタイルが剥げかけた共同の流しが2階にあるんだが、沢水を引いているらしく、キンキンに冷えて締まってる。
コイツをペットボトルに汲んでは飲み、風呂に入りを何度繰り返したことか。いつもはカラスの行水的にやり過ごしてきた松川温泉だが、こうしてゆっくり入ると、その湯の素晴らしさに初めて気づく。
メシも頑張ってます。ニジマスの刺身に、ニジマスの卵。お約束の岩魚の塩焼きとか、八幡平の牛肉。フキの煮物も素朴で美味い。
食事は大広間で取るんだけど、かなりの人数がいたから満室に近かったのかもしれない。地元のジジババ団体もいれば、一人旅っぽい人も多かった。あと、ショーン・コネリーみたいな外国人もいたな。人気が高いのだね。
前日あまり寝てなかったのと風呂に入りすぎて疲れたのか、晩飯後は早々に寝た。うるさいほどの沢音が耳に心地よい。まるで山の中にいるかのようだ。
明け方3時頃に目覚め、またも露天風呂。さすがに気温は下がり肌寒いが、湯につかればすぐに火照る。体を沢風に当ててはまた浸かる。月明かりの夜空を見上げていると、くだらないことはすべて忘れてしまう。脳味噌が丸ごと入れ替わったかのように、頭が冴え渡ってくる。そうこうしているうちに夜が明けてくる。
ソフィスティケートされてはいないし、上級者(?)向けな気もしないではないが、この宿は気に入った。いつかリピートするかもしれない。
宿もよし、Photoもよし。
こういうとこが落ち着くんだな。
そういう歳かな。
やっぱ東北だな。