電子ブックの未来はどこに〜その1

またしてもソニーネタですみません。10月2日に、ソニーが新しい電子ブックリーダーを出すようです。

著作権が絡むと遅々として進まなくなる日本を尻目に、米国ではこの市場はけっこう注目されてる。現時点での図式としては、アマゾンとソニーの2強なのかな。アマゾンはご存じKindleで、面白い試みではあるんだけどいまひとつパッとしない印象。デザインがナニだからでしょうか?

ことこの分野に関しては、自分の仕事も関係してるので、言いたいこと/言えないことがたくさんあるんだけど、自分用のメモも兼ねて。長文です。

まず、電子ブックの世界ではよく引き合いに出される、Appleの話をまとめてみますか。

●音楽の世界でAppleは何をしたか

音楽配信でイニシアチブを取っているのは、やっぱりAppleだ。また、映画やテレビ番組についても、事実上Appleになってしまっている。日本にいると実感は湧かないが、アメリカ人であれば、テレビの連続ドラマやスポーツ中継なども、数ドルで購入して楽しめる。日本でいうと、篤姫や阪神×広島戦を200-300円で買える、みたいな感じ(ちがうかw)。高いか安いかは置いといて、仕組みとしてはすでに出来上がっている。「24」まるごと買える、とかね。

この「仕組みとしてはすでに出来上がっている」のが、最も重要なところ。今更だけど、AppleはiPodだけを作ったんじゃない。その歴史というか過程を、簡単に振り返るとこうなる。

  • 2001.10 iPod発表
  • 2002.7 iPod for Windows(当初はFireWire版のみ)
  • 2003.4 iTunesMusicStore(のちのiTunesStore)
  • 2003.10 iTunes for Windows

iPodは登場時、マーケットからはとても冷ややかな目で見られた。当時、雨後の筍状態のMP3プレーヤー市場にAppleも参戦したわけだが、「5GBもの音楽なんて、全部聴くのに何日もかかるのに、それを持ち歩きたいと思う人がどれだけいるのか。しかも5万円近くも出して。まさにルンバ♪♪」というのが平均的な見解だったと記憶している。

だが、例えばシャッフル再生の魅力や、よく練られたインターフェースなどが評価されるようになったところで、AppleはiPodのWindows版を出してシェアを一気に拡げて、その後iTunes Music Storeをオープン。コンテンツを牛耳った。

こうして振り返ってみると、デビューからたったの2年でそのほとんどを成し遂げてしまっているのね。改めてすごい勢いだ。株買っとけばよかった。

●電子ブックで成功するために何をすべきか

Appleが短期間で音楽市場の首根っこを押さえてしまったことになぞらえれば、本の世界で何をすべきかなんて本当に簡単だ。

  • ハードウェア開発
  • コンテンツ流通の仕組み

さしあたっては、これだけ。というか、むしろ重要なのは、この2つを同時に行わねばならないこと。もちろん高いクォリティーでね。

音楽と違って、書籍に関しては自分の資産を電子化するのがほぼ不可能だ。CD-ROMドライブにCDを入れて「Rip」と書かれたボタンを押せばいいというわけではない。そのため、電子ブックリーダーで読むコンテンツは、その時点で持っている本ではなく、どこかから持ってこなくてはならない。当たり前のようだが、これは意外と大きなハードルであり、iPodのように、最初の助走期間がないことを意味する。

また、何万冊、何十万冊の蔵書があろうとなかろうと、それらを電子ブックでは活用できないというやるせなさも克服しなくてはならない。これは意外と大きな要素で、「やっぱり本は紙じゃないとなあ」という潜在的な保守層を生み出す遠因ともなっているはずだ。

書籍の場合は、端末はもちろん、整備されたiTunes Music Store的なものを同時に立ち上げないといけない。さらには保守層をも取り込める、付加価値のあるサービスでなければならない。おそらくそこが最大の難点だろう。

さて、前置きがあまりにも長かったが、今回のソニーの新製品、個人的に要注目です。

Kindleがモタモタしてる間に、きっとソニーは着々と「何か」を準備していたに違いない。なんてったって会場にわざわざNYのLibrary Hotelだなんて意味深な名前のホテルを選んでるしね。すぐそばにはNY Public Library(ニューヨーク公共図書館)があるんだけど、この図書館、名前だけ見ると公共機関っぽいのに実は違う。世界最大規模の私立図書館なんだそうだ。

こんなロケーションで発表するくらいだから、何らかの魅力的なサービスを用意してるんじゃないかって深読みしたくなるじゃないですか。あー、死ぬまでに一度、ニューヨークに行ってみたいな。できれば半年くらい。

ところで。

AppleのSteve Jobsは以前、Kindleについてのコメントを求められてこんなことを言ってる。

It doesn’t matter how good or bad the product is, the fact is that people don’t read anymore. Forty percent of the people in the U.S. read one book or less last year. The whole conception is flawed at the top because people don’t read anymore.

いまどき誰も本なんて読まないんだから、しょーもないモン出しても意味なくね?ってことを言いたいらしい。

でもね。この人「iPodみたいなちっこい画面で動画見るだなんて、そんなアホどこにおんねん?」とか「アップルが携帯電話なんて作るか、ボケ!」なんてこと公の場で言ってましたからね。そういや、むかしこんなエントリを書いたことがある。ちょうどその1年後の2005年秋に、動画配信が始まったんだけど、書いた当時も「まさかあり得ないだろうが」くらいな意識だったのを覚えている。まあ、Appleが電子ブック市場に手を出したとしても、何の不思議もないけれど。

近いうちに、「その2」を投稿します。たぶんサービスについて。さすがに長過ぎるなこれw

「電子ブックの未来はどこに〜その1」への2件のフィードバック

  1. Nosは、私の会議をのぞいているのか!
    本当に、エントリありがとう! 感謝としか言いようがない。
    続き、マジ待ち。

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